みんなのメタル童話 「くろうずくろう」 あるところに一羽の子供カラスがいました。 彼はよく「おれはタカになりてえ」と言っていたので 他のカラスたちからは変わり者だとよくバカにされていました。 あるカラスは彼に言いました 「お前、タカになんてなってどうするんだ?」 それに続いて他のカラス達が口を挟みます。 「そもそも俺らカラスとタカとじゃ生まれも育ちも違うじゃないか」 「そうそう。俺達は生ゴミを漁って毎日気楽に生きるのがお似合いさ」 静かになるのを待って、子供カラスは言いました。 「おれたちには爪もくちばしも付いてる。タカと一緒だろ?どうして違うと決めつけて諦めちまうんだ?」 それでも他のカラスたちは納得いかないらしく、ざわざわと言葉をこぼしました。 「おれはタカになる。いま決心した。だからおれは今からカラスをやめるぞ」 そう言い残し、騒ぎ立てる他のカラスを尻目に飛び立ちました。 カラスをやめると言ったものの、どうすればいいのか実は自分でもよく解ってはいませんでした。 黒い羽を捨て去ってしまうか?でもそんな事をしたら鳥ですらなくなってしまう…。 悩んだ結果、まずは狩りをすることから始める事にしました。 その代わりにゴミを漁るのをやめることにしたのです。 「毎日を狩りのみで生き抜く。実にタカらしいじゃないか!」 そんなことを考えると気持ちが高ぶりました。 丹念に自分の爪を舐めると、なんとも不思議な輝きを放ちました。 「こいつですごい獲物を捕らえてやるぞ!」 子供カラスは勢いよく空に舞うと、円を描くように何度もぐるぐると飛び回りました。 「大きいやつを捕まえよう!それならバカにしたやつらにも自慢できるぞ!」 しばらく空を飛んでいると、ゴミ箱を漁る野良犬の姿が目に入りました。 がっしりとした体をした大人の犬でした。 「あんななりしてるけどゴミなんて漁ってやがる」 子供カラスは他のカラス達のことを思い出してクスクスと笑いました。 そこへ、別の犬が先ほどの野良犬の元へ近づいていきました。 スキをみて、エサを横取りしようと考えてるようです。 一歩二歩と歩を進め、三歩を出したと同時に野良犬はゴミから顔を上げ 横取りしようと近づいてきた犬の方を見ました。 すると急に凶暴な顔つきに豹変し、恐ろしい声で吠えたてました。 周りの木々がまでも震えるような大きな声。 驚いた犬はものすごいスピードで逃げ去って行きました。 その光景を空から見ていた子供カラスも 恐くて恐くて逃げ出したい気分でした。 「おれにはあんな恐い顔も、恐い声もだせねえ…」 さっきまでの気持ちはすっかり吹き飛び、今は震えが治まりません。 結局ここは一端諦めて、他の獲物を探すことに決めました。 それから何度も狩りに挑戦するのでしたが、ここぞ!というところで恐くなり 一度も獲物を捕まえられぬまま、夕暮れを迎えようとしていました。 子供のカラスはもうヘトヘトです。それでも、 「あと一回だけ挑戦してやるぞ…」 そう心に決め、また空を飛び回りました。 少しすると、のろのろと歩いているネコを見つけました。 「あいつにしよう…あいつなら捕まえられるぞ」 気づかれないように背後から忍び寄ると、両足の爪でしっかりネコの背中をつかみ 最後の力を振り絞って羽ばたきました。 「やった!つかまえたぞ!」 自分の両足に捕まれたネコを見て、初めての狩り成功の喜びに浸りました。 そして疲れを忘れて飛び回ると、近くの茂みに降り立ちました。 他のカラスに横取りされないよう、周りに注意しながら捕まえてきた獲物に目をやりました。 ネコはよく見ると自分と同じくらいの歳の子供のネコでした。 しかもなんだか元気もありません。 食事の為に捕まえてきた獲物でしたが、そんな獲物の姿を見ると どうしたらいいのか解らなくなってきました。 迷っていると、子ネコは口を開きました。 「…おなかがすいたよう」 そう言えば自分もお腹が空いていました。 「…よしわかった!何か捕まえてくるからじっとしてろよ!」 そう言って子供カラスはまた飛び立ちました。 歳が近いからなのか、一緒にお腹が空いているからなのか 子ネコの分まで獲物を捕ってくることにしました。 今度は無茶はせずに、小さな虫をたくさん捕まえました。 そして子ネコの前に置くと、二匹は黙って一緒に食事をしました。 満腹になると、二匹はますます黙り込んでしまいました。 子ネコは自分が捕まえられて来たことで緊張していたし 子供のカラスも、自分のやっていることに混乱していました。 先に口を開いたのは、また子ネコの方でした。 「きみは立派な爪をもっているんだね。今までたくさん獲物を捕ってきことだろうね…」 子供のカラスはそれには答えず質問しました。 「…おめえ、なんでそんなにお腹空かして歩いてたんだ?母親はどうした?」 子ネコは自分は食べられるものだと思っていたので、意外な質問に驚きました。 でも機嫌を損ねてはいけないと思い、正直に答えることにしました。 「母親はいないよ…。大きな鳥に捕まえられていっちゃったんだ…。  だから自分の力で生きようと思って狩りをしてたんだけど、全然できなくて…。  はらぺこだったところを君に捕まえられちゃったわけさ…」 子供カラスも自分の事を話しました。 タカになりたい夢のこと。他のカラスにバカにされたこと。 そして自分も狩りができなくて、今回が初めて捕まえた獲物だったこと。 何もかもを話すと、二匹は少しずつ仲良くなっていきました。 お互い話す相手が居なくて寂しかったのかもしれません。 次の朝、目を覚ますと子ネコは言いました。 「ぼくはライオンになるよ」 それからというもの、二匹は競い合うように狩りをするようになりました。 最初は全然上手くいかなかった狩りも、日を重ねる事に上達していき お互いの獲物を見せ合っては喜んだり、悲しんだり、怒ったり。笑い合ったりもしました。 二匹が自分よりも大きな獲物を捕まえられるようになったころ ネコが言いました。 「今度牛を捕まえない?牛の肉はすごくおいしいってうわさだよ!」 カラスは反対しました。いくらなんでも今の自分たちには大きすぎる獲物でした。 でもネコは言うのです。 「ぼくたちが力を合わせれば恐くないよ!それにライオンになるには牛くらいは狩れないとね!」 そう言われて、慎重になろうとしているカラスは自分が弱虫に思われている気がしてきました。 「別にこわくはねえよ。おめえがその気なら安心だ」 カラスは強がってそう言いました。 二匹は草原で居眠りをしている牛を見つけました。 カラスは初めて狩りに挑戦したときに会った野良犬の事が頭をよぎり 不安で一杯になりました。 「牛には牙も爪もないんだ。ただ体が大きいだけだよ」 ネコがそう言うと不思議と自信が出てきました。 二匹はお互い顔を見合わせると、それを合図に牛に一斉によく飛びかかりました。 突然の痛みで牛は驚いて目を覚ましました。 そしてものすごい力で暴れると、カラスの体は宙に投げ飛ばされ 羽ばたく間も無く地面に叩きつけられました。 よろよろとか体を起こすと、そこに牛の姿はありませんでした。 その代わり口から血を流してぺしゃんこになったネコの姿がありました。 「ネコ…!しっかりしろ…!」 近づいてみると、もう体を動かせない程ボロボロになっていました。 「…やっぱり立派なたてがみがないと…、ライオンにはなれないのかなあ…」 ネコはそう言うとゆっくり目を閉じました。 「しぬなあ!ネコ!…おれをひとりにしないでくれ!」 カラスの目からたくさんの涙がこぼれ落ちました。 どんな辛い事があっても流さなかった、生まれて初めての涙でした。 そして祈るように言いました。 「かみさま…!ネコをたすけてくれ…!おれの爪もくちばしもやるから…たすけてくれ…!  タカになれなくたっていいから…たのむ…!」 その時周りの木々が一斉に揺れ、辺りがざわつき始めました。 気が付くと、二匹の周りには取り囲む程のたくさんの黒い姿がありました。 「実に運がいいなあ。ネコの肉なんてここ何年も食べてなかったよ」 「そこのお前。突っ立ってないで俺達にも食わせろよ」 みんなネコの肉を狙ってやって来たカラスでした。 「俺腹ぺこなんだ。食わないなら先に頂くぜ」 そう言って一羽が横からネコにくちばしを立てました。 「さわるんじゃねえ!」 それを見てカラスは爪を立てて追い払いました。 「このネコは…おれの仲間なんだ!おめえらにはふれさせねえぞ!」 他のカラス達は騒ぎ立てます。 「そう言って独り占めするきだろ!」 「そうはさせるか!やっちまえ!」 たくさんの黒い影が二匹に飛びかかりました。 突かれ、引っ掻かれ、カラスはボロボロになっていきます。 その間にも、ネコは他のカラス達につつかれて元の形を失っていきました。 「ネコ……ごめんな…」 夕暮れになる頃には、血の付いた黒い羽が周りにたくさん広がっていました。 今度は野良犬や野良猫たちが血の臭いに集まって来ました。 逃げ遅れたり、動けなくなっていたカラスは次々と捕まって行きました。 その中で一羽だけ爪を立てるカラスがいました。 彼はフラフラの体で羽を広げ、空へ飛び立ちました。 その姿はとても弱々しいものに写ったのかもしれません。 やがて力尽きて落ちてくるのを待ち望むように たくさんの視線が背中に注がれました。 仲間を失い、黒い羽もたくさん失いました。 それでも、どこかへと向かう彼の瞳の中では 燃えるような赤い夕陽が輝き続けていました。 おしまい EDテーマ「CROW`SCLAW / Not For All」